アメリカ駐在員のグロスアップ年末調整

Featured Japan | Prager Metis | Oct 15, 2024

早いもので今年も残すところあと3カ月を切る。アメリカで働く日本人駐在員にとっては、ハロウィンやサンクスギビングなど楽しいイベントを経験できる一方、会社では少しずつ年末の決算作業や年末調整で忙しくなる時期でもある。今回は、日系企業のコスト管理上重要となる、駐在員個人におけるアメリカのグロスアップ年末調整について概説する。

 

1. 日本とアメリカの年末調整制度の違い

 

日本では、年末になると会社側が従業員の年末調整を行うことは、良く知られている。この年末調整とは、毎回の給与から源泉徴収された税額の年間合計と、その年の正確な所得税額を一致させる精算手続きである。一方、アメリカでは、日本のような会社側が従業員の所得税額を調整する制度は存在しないのである。従業員自身が、自らの責任で米国個人確定申告を行うとともに、源泉徴収額と実際の所得税額を精算しなければならない。

 

2. アメリカ駐在員のグロスアップ年末調整とは

 

アメリカでは会社側で行う年末調整という制度がそもそもない。そのため、アメリカで働く駐在員は、個人確定申告とは別に年末調整と性格上似ている「グロスアップ年末調整」を、毎年行うのが一般的である。これは、日本では非課税扱いでも、アメリカでは個人レベルでは課税扱いとなる、住居・通勤手当や引っ越し手当など(Fringe Benefits)を、年末に給与として所得認識するとともに、追加の源泉徴収額を計算する手続きである。

 

アメリカで課税所得として認識される手当の例(Fringe Benefit)

家賃/住居補填

公共料金

自宅駐車場代

家具レンタル/ 購入手当

自宅レンターズ保険

通勤手当

米国税務申告書作成費用

一時帰国費(ビジネス目的でない場合)

英会話レッスン代

会社加入のグループ医療保険以外の医療費

教育手当

日本語補習校費

私用車ガソリン代・自動車保険

引越し費用・手当

 

3. グロスアップ年末調整のメリット

 

アメリカで働くサラリーマンは、自らの責任で個人確定申告を行い、源泉徴収額と実際の所得税額を精算する。このような年末調整は行わないのである。ではなぜアメリカで働く日本人駐在員は、わざわざグロスアップ年末調整を行うのかについて、以下述べる。

 

理由1)駐在員に対する税務コスト管理

多くの日本企業は、アメリカ駐在員への給与は手取保証のしくみを採っている。この場合は駐在員の諸手当は会社側が負担する。住居手当などアメリカでは本来個人が課税対象として扱われる手当を、税金込みで会社が負担する。そのために会社側で負担する駐在員に対する税務コストの範囲も広がるのである。そのため会社側は、事業計画や財務管理の観点から、年末に駐在員のグロスアップ計算を行い、駐在員の正しい税務コストを事前に把握することが、適切と言える。

 

理由2)源泉徴収額の過少納付によるペナルティー回避

源泉徴収もしくは予定納税された納税額が、最終的な個人確定申告時に計算された課税額に対して、不足額が生じた場合、利息などペナルティーが発生する。このようなペナルティーを回避するため、年末にグロスアップ計算を行い追加の源泉徴収額を納税するのである。会社負担の税務コストの増加を防止することにつながる。

 

4. まとめ

 

今回は、アメリカ駐在員のグロスアップ年末調整のしくみを説明した。実際の個人申告書の作業としては、申告者要件や居住者・非居住者期間の判断、受取利息、配当金、株などの売却損益や不動産収入といった、会社からの給与以外の所得などを把握する必要がある。最終的な個人申告書上で確認・申告する手続きは複雑となる。駐在員の税務コストを適切に管理し、関係各所としっかり連携、グロスアップに必要な書類やデータが揃っていることを、確認することでスムーズな作業が可能となる。

 

<本ニュースレターは、米国における一般的な動向や情報をご案内する目的で配信している。具体的なご質問やアドバイス等は専門家に直接ご相談下さい。>

 

(参考)

国税庁 No.2662 年末調整のしかた

2025-01-31T14:56:34-05:00